高力ボルト本締めの検査|マークのずれは群の平均±30°で見る

一次締めのあとにマーキングをした高力ボルトの継手 11 鉄骨工事

11 鉄骨工事|施工中

  1. 段取り:鉄骨建て方の手順と段取り
  2. 施工中:この記事
  3. トラブル対処:—

建て方の翌日の夕方、詰所で。

ルー

明日、高力ボルトの本締めの検査に立ち会うことになりました。ピンテールが全部切れていれば合格、で合ってますか?

テツさん

切れてるのは最低条件だな。マークの線を見ないと、検査をしたことにならないぞ。

ルー

マークの線……一次締めのあとに引く、あの線ですか?

Kony

そう、検査の主役はあの線なんだ。なぜ線を引くのか、どこが回っていたらだめなのかを順番に話すね。

線を見る一次締め後のマークのずれで、ナットだけが回ったかを見る
群の平均±30°回転量のばらつきは、ボルト群の平均との差で判定する
雨は締めない濡れたボルトは乾かしても使わない(メーカー団体の見解)
本締めの検査は、ピンテールの破断を見たあと「線のずれ」で合否を決める作業です。

高力ボルトの本締め検査は「マークのずれ」で合否を見る

高力ボルトの本締め検査で監督が一番時間をかけて見るのは、一次締めのあとに引いたマークのずれです。トルシア形高力ボルトはピンテールが切れれば締付けが終わったと分かりますが、それだけではナットと座金が一緒に回った(共回り)か、ボルトが回った(軸回り)かまでは分かりません。高力ボルト協会の Q&A は、マークについて「このマークは、締め忘れの有無の確認だけでなく、ナットの回転量、共回りの有無の確認にも利用されます。」と書いています。だから検査は「ピンテール→マーク→回転量→ボルトの出(余長)」の順に見ていきます。

なお、ここで書くのは現場で多いトルシア形高力ボルトの話です。公共建築工事標準仕様書(令和7年版)7.4.1 では、高力ボルト接合の節はトルシア形高力ボルトの摩擦接合と JIS 形高力ボルトの摩擦接合に適用するとしています。JIS 形(高力六角ボルト)や溶融亜鉛めっき高力ボルトは締め方と検査の方法が違うので、現場の施工要領書で確かめてください。

① 一次締め後 マークは一直線 (ボルト・ナット・座金・鋼材) ② 本締め 合格 ナットのマークだけ回る 他の3か所はそろったまま ③ 共回り ナットと座金が一緒に回る → 許容されない ④ 軸回り ボルトの先端のマークも回る → 許容されない
図1マークのずれ方で見分ける4つの状態(模式図。ボルトを先端側から見た図で、回転の角度は例ではありません)。共回り・軸回りが許容されないことは高力ボルト協会「高力ボルトのQ&A」施工編 Q12 による

一次締め→マーキング→本締めの順番と、それぞれの意味

順番は「建入れ直し・精度確認→ボルト挿入→一次締め→マーキング→本締め→締付け後の検査」です。高力ボルト協会の Q&A(Q33)は「1次締めは部材の密着を意図するもので、ボルト呼び径に応じたトルクで行ない、マーキングは締付け後の検査において、ナットの回転量を目視で確認するためのものです。」としています。つまりマークは、本締めのあとでナットがどれだけ回ったかを目で確かめるための基準線です。

一次締めのあとにマーキングをした高力ボルトの継手
工事名
●●●工事
工種
鉄骨工事
内容
高力ボルト 一次締め後マーキング

一次締めのあとにマーキングをした高力ボルト。ボルト・ナット・座金・母材にかけて白い線が入っている。

  1. 建て方(仮ボルトで固定)
  2. 建入れ直し・精度確認(本締めの前)
  3. 本締め用ボルトの挿入
  4. 一次締め
  5. マーキング(全数)
  6. 本締め(ピンテール破断まで)
  7. 締付け後の検査
  8. 記録・報告
図2高力ボルト締付けの流れ。監督が必ず見るのは建入れ直しの完了、マーキング、締付け後の検査。本締め用の高力ボルトは、特別な場合を除き仮ボルトに兼用しない(高力ボルト協会 Q3)

本締めの前に、建入れ直しが終わっているか確かめます。建入れ直しは、仮ボルトで留めた段階でブロック(スパン)ごとに行い、建入れ精度を確かめてから本締めに入ります。ワイヤーは本締めが終わって架構が自立してから外します。外す時期は建方計画(施工計画書)で決め、迷ったら鉄骨の職長・監理者に確認してください。

マークがないまま本締めされたボルトは、あとから回転量を確かめる手段がありません。高力ボルト協会の Q&A は「マーキングは必須であり、マーキング無しで締付けられたボルトは取り替えることになります。」と答えています。マーキングが全数にあるかは、本締めの前に見ておくのが監督の段取りです。

挿入から本締めまでの日程にも決まりがあります。同じ Q&A は「ボルト挿入から本締めまでの作業は、同日中に完了させることを原則とする。」としています。夕方に一次締めだけして翌日に本締め、という段取りになりそうなら、事前に鉄骨屋さんと施工要領書の扱いを確かめてください。

本締めの順番は、接合部の中心から外へ

本締めは、ボルト群の中心から外側へ向かって締めていきます。高力ボルト協会の Q&A は「一群のボルトの締付け順序は、図4に示すように接合部の中心から外側へ向かって締付けていきます。」としています。ここでいう「一群」は上フランジ・下フランジ・ウェブのように分けて考える、とも書かれています。

本締めの前に見ておくこと(摩擦面とボルトの長さ)

標準仕様書(令和7年版)7.4.2 は、摩擦面をすべり係数値 0.45 以上が確保できるよう処理するとしています。方法は、ミルスケール(鋼材の表面の黒い酸化皮膜)を除いて一様に錆を出すか、ブラストで表面粗度 50μmRz(表面の凹凸の高さを表す値)以上にするかです。ボルトの長さは表7.2.2 で、締付け長さに次の値を加えた長さを標準とします。

ねじの呼びトルシア形(mm)JIS 形・溶融亜鉛めっき(mm)
M162530
M203035
M223540
M244045
締付け長さに加える長さ(公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版 表7.2.2。M12 は JIS 形 25mm のみ)。5mm 単位にならない場合は「2捨3入又は7捨8入」、つまり端数が1〜2mmなら切り捨て、3〜7mmなら5mm、8〜9mmなら切り上げます

本締め後の検査で見る4つのこと

締付け後の検査は、全てのボルトを目で見て、次の4つに異常がないかを確かめます。ピンテールが切れているか、マークのずれ方がおかしくないか(共回り・軸回り)、ナットの回転量がそろっているか、ボルトの出(余長)が範囲に入っているかです。

本締めが終わったトルシア形高力ボルトの継手とマーキング
工事名
●●●工事
工種
鉄骨工事
内容
高力ボルト 本締め完了 マーキング確認

本締めが終わったトルシア形高力ボルト。ピンテールが破断し、一次締め後に入れたマーキングがずれている。

見ること合格の見方根拠
ピンテール全数破断している日鉄ボルテン「締付け終了はピンテールの破断で確認できます。」
共回り・軸回りどちらもない(ナットのマークだけがずれている)高力ボルト協会 Q12「どちらの現象も許容されません。」
ナットの回転量ボルト群の平均回転量に対して ±30° の範囲内高力ボルト協会 Q15
ボルトの出(余長)ナット面から突き出た長さを、施工要領書の基準で数える施工要領書

回転量は「何度以上」という一つの値で見るのではありません。高力ボルト協会の Q&A(Q15)は「ナットの回転量は1次締めの大きさやボルトの首下長さなどの条件の違いにより様々な角度となり得る為、ナット回転量の許容範囲は決められていません。」としたうえで、「ナット回転量が群の平均回転量に対して±30°の範囲内にあるボルトを合格としています。」と答えています。同じ群の平均と比べて、一本だけ回りすぎ・回り足りないものを探すのが検査の考え方です。

余長(ナット面から突き出たねじの山数)の合格の範囲は、工事の施工要領書に書いてあります。立会いには施工要領書の検査の頁を持っていき、その基準で数えてください。

トルシア形では、本締めのあとにトルクレンチで追い締めして確かめる「トルクチェック」はしません。同じ Q&A(Q5)は、ピンテールの破断トルクが締付けトルクに等しいので、締付け後に追締めトルクで締付け力の適否を判断しようとすることは「無意味である」としています。迷ったときに見直すのは、トルクではなくマークです。

ピンテールは破断している? はい 共回り・軸回りはない? はい 回転量は群の平均±30°以内? はい 合格。写真と記録を残す いいえ 印を付けて止める 処置は施工要領書と 監理者の指示による ボルトの出(余長)も同時に目で見る。 マークがないボルトも「いいえ」と同じ扱い。
図3締付け後の検査の判定の流れ。共回り・軸回りと回転量は高力ボルト協会「高力ボルトのQ&A」施工編 Q12・Q15 による

雨の日の本締めはしない。濡れたボルトは乾かしても使わない

降雨時は締めません。高力ボルト協会の Q&A(Q2)は「降雨の際は、締付け作業を行わないで下さい。」としています。理由は、濡れるとボルトのトルク係数値(締付けトルクとボルトに入る張力の関係を表す値)が変わり、ピンテールが切れても所定の張力が入っていないおそれがあるからです。Q21 は「降雨、降雪などにより、水濡れ状態となったボルトは、トルク係数値が変化して、適正な締付け張力(軸力)が得られない恐れがあり、そのまま使用しないで下さい。」と書いています。

雨上がりの再開や、濡れたボルトの扱いは、施工要領書に従い、監理者・メーカーに確認してください。保管についても Q16 は、条件の一つに「雨水、夜露による濡れ、錆の発生、ほこりや砂などの付着が防止できること。」を挙げています。雨の予報が出たら、挿入するボルトの量と保管の覆いを前日に決めておくと、当日に迷いません。雨で作業を止めるときの考え方は、コンクリート打設の雨の中止基準の記事でも書きました。

監督の写真管理:締付け前・一次締め・本締めと使った機材を撮る

僕は高力ボルトを、監督として何か所かを決めて写真で管理しています。締付け前、一次締めとマーキングのあと、本締めのあと、の3段階を同じ箇所で撮ります。あわせて、一次締めに使った機材と設定値が分かるように撮ります。

一次締め前の高力ボルト継手(ウェブの添え板)
工事名
●●●工事
工種
鉄骨工事
内容
高力ボルト 一次締め前

一次締めをする前の高力ボルト継手。ボルトを差し込んだ状態で、ピンテールが付いたままになっている。

いつ何を写すかなぜ
締付け前ボルトが入った状態の接合部本数・向きと、締める前の状態を残す
一次締め・マーキング後ボルト・ナット・座金・鋼材にまたがる線マークが一次締めのすぐあとに引かれたことを残す
本締め後ピンテールの破断と、ナットのマークのずれ検査で見たものを、あとから誰でも確かめられるようにする
使う機材一次締めに使ったレンチと、施工要領書で決めた一次締めトルクの設定値一次締めをどの機材・どの値でしたかを残す

Konyの現場メモ

僕の現場で締め忘れが出たことはありません。が今後出ないとも限らないので十分チェックが必要です。

線は一次締めのすぐあと。写真もそのとき撮っとけテツさん(職長)

不合格のボルトが出たら、印を付けて止めて報告する

不合格のボルトを見つけたら、監督の判断でその場で直させず、印を付けて止め、施工要領書の処置を確かめて監理者に報告します。高力ボルト協会の Q&A は、共回り・軸回りが起きたボルトは新品に交換する、マーキングなしで締めたボルトは取り替える、としています。外したボルトを締め直しに回すこともできません。Q32 は「一度使用した高力ボルトはいずれの締付け方法によった場合も再使用できません。」としています。

本締めの前に、マークの引き忘れに気づいた(引いてから本締めする)現場で直す
当日の検査で、本締めの終わっていない(ピンテールが切れていない)ボルトが残っていた。ナットのマークがずれていないものに限る直して報告
ナットが回っているのにピンテールが切れていない、マークなしで本締めされた、共回り・軸回り・回転量や余長の外れが出た指示を仰ぐ

構造に関わるところ

高力ボルトの締付け不良は、接合部の性能に関わります。締め直し・交換の範囲や方法は、現場監督の判断で済ませず、監理者に報告して、必ず構造設計者・監理者の指示を仰いでください。処置の手順は施工要領書・仕様書に従ってください。

記録は、鉄骨屋さんの締付け記録(どの群を誰がいつ締めたか)と、監督側の検査記録・写真をそろえて残します。誰が何を記録するかは、施工要領書の検査の項で決めておくと、検査の当日に迷いません。

よくある質問

一次締めと本締めは、同じ日にしないといけませんか?

高力ボルト協会の Q&A は、ボルト挿入から本締めまでを「同日中に完了させることを原則とする」としています。日をまたぐ段取りになりそうなら、施工要領書での扱いを鉄骨屋さん・監理者と先に決めておきます。

トルシア形の本締めのあと、トルクチェックは要りますか?

トルシア形では、締付け後に追締めトルクで締付け力の適否を判断する意味はない、と高力ボルト協会の Q&A(Q5)は答えています。検査はピンテールの破断とマークのずれ・回転量・余長で行います。

ナットの回転量は何度なら合格ですか?

トルシア形では一つの角度で決めず、ボルト群の平均回転量に対して ±30° の範囲内を合格とする、というのが高力ボルト協会の見解です。具体の判定方法は工事の施工要領書・特記仕様書を確認してください。

雨で濡れたボルトは、乾かせば使えますか?

使えません。高力ボルト協会の Q&A(Q21)は「水濡れ後に乾燥した場合も、品質が変化している恐れがあり、締付け張力(軸力)は必ずしも保証されないため使用できません。」としています。濡れたボルトが出たら、扱いは監理者に報告して決めてください。

本締めの検査は、ピンテールを数える作業ではなく、一次締めのあとに引いた線を読む作業です。明日の立会いでは、施工要領書の検査の頁を持って、まず全数にマークがあるかを見て、そのあと群ごとにナットのずれ方と余長をそろえて見てください。

参考にした基準・資料

  1. 国土交通省「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)」令和7年版7章2節 7.2.2(トルシア形高力ボルトは JSS Ⅱ 09・認定品)・表7.2.2(締付け長さに加える長さ)(PDF頁70)、7章4節 7.4.1(適用)・7.4.2(摩擦面の性能及び処理:すべり係数値0.45以上、50μmRz以上)(PDF頁74)。閲覧日 2026年10月22日
  2. 高力ボルト協会「高力ボルトのQ&A」施工編 Q2(降雨中の施工)・Q3(仮ボルトとの兼用)・Q4(マーキングの意味)・Q5(トルクチェック)・Q12(共まわり・軸まわり)・Q15(ナット回転量の許容範囲)・Q16(保管・取扱い)・Q18(本締めまでの日数)・Q21(濡れたボルト)・Q32(再使用)・Q33(1次締めの目的)・Q34(締付け順序)・Q36(マーキング無し)。閲覧日 2026年10月22日
  3. 日鉄ボルテン「トルシア形高力ボルト(高力TCボルト)」製品ページ締付け終了の確認(ピンテールの破断)。閲覧日 2026年10月22日
  4. 日本建設業連合会 鉄骨専門部会「鉄骨工事Q&A」B-2-11トルシア形高力ボルト締付け終了後の検査項目(余長・ピンテール・マークのずれ・共回り・軸回り)。閲覧日 2026年10月22日

基準の数値は版によって変わることがあります。実際の工事では、特記仕様書と施工要領書、最新版の基準を確認してください。

この記事の確認日:2026年10月22日

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