朝礼前の詰所。KYシートの書き方を初めて任されたルーが、記入を終えて持ってきた。
危険のポイントは「足場から落ちる」、行動目標は「注意して作業する」。書けました!
その2行、昨日のシートにも一昨日のシートにも書いてあったよね。どの日にも使える文だと、読む側の目が滑っちゃうの。
じゃあ「十分に注意して作業する」に直します!
十分ってのは何センチだ。俺らが知りたいのは、今日どこで何をやったら落ちるかだよ。
じゃあ「足元をよく確認する」なら具体的ですよね!
それも、どの日のシートにも貼れる万能シールだね。何をしていて、どうなっていて落ちるのか、貼る場所を書いたら効き始めるよ。
結論
- 危険のポイントは「〜していて/〜なので(危険要因)、〜して落ちる・挟まれる(事故の型)」の1文で書く。「かもしれない」とケガの結果は書かない。
- 「不安定な」「無理な姿勢」などの抽象語と「〜していないので」の否定形は、目に見える動作(中腰・つま先立ち・身を乗り出す)に置き換える。
- 行動目標は「注意する」をやめ、肯定形で、その場で見て確かめられる動作を書く(例:脚立を手の届く位置まで動かしてから留める)。
KYシートの書き方は「危険のポイント」と「行動目標」の2欄で決まる
KYシートの書き方で差がつくのは、「危険のポイント」と「行動目標」の2欄です。様式は現場ごとに違いますが、作業内容や人数の欄は事実を書くだけなので、迷うのはこの2欄だと僕は思っています。しかもこの2欄はつながっていて、危険のポイントがぼんやりしていると、行動目標もぼんやりします。
新人がよく書く「足場から落ちる/注意して作業する」は、会話でKonyが言ったとおり、どの作業のどの日にも貼れる万能シールです。万能すぎて、今日の作業にはどこにも効きません。この記事では、この2行を「今日のこの作業」の文に直す手順を順番に書きます。
僕の現場では、8:00の朝礼のあと、作業前にTBM(ツールボックスミーティング)と現地KY、始業前点検をします。
KYシートは作業前に読み合わせて使うものなので、読んだ人が「あ、あそこのことか」と場所と動作を思い浮かべられるかどうかが、書けているかの目安になります。この2欄がなぜ省略形になりやすいのかは、後半の4ラウンド法の節で書きます。
危険のポイントは「危険要因+事故の型」で1文にする
危険のポイントは、「〜していて/〜なので」(危険要因)と「〜して落ちる」(事故の型)をつないだ1文で書きます。僕の現場の安全衛生協議会のKY教育で、この形で書くように話しました。危険要因には「不安全な行動」(人が何をしているか)と「不安全な状態」(物や場所がどうなっているか)があり、どちらか、できれば両方を入れます。
事故の型は「落ちる」「転ぶ」「挟まれる」「当たる」「感電する」のように、起きる現象で言い切ります。「落ちるかもしれない」「転落する恐れがある」と濁さず、「骨折する」のようなケガの結果も書きません。結果まで書くと、話し合いが「どれくらい痛いか」に流れて、「どうすれば起きないか」から離れてしまうからです。
この考え方は、KYT(危険予知訓練)の説明とも同じ向きです。KYTは4つの段階(ラウンド)で進める訓練で、厚労省の職場のあんぜんサイトでは、最初の1ラウンド目(どんな危険がひそんでいるかを出し合う段階)について「危険要因とその要因がひきおこす現象を想定して出し合い」と書かれています。要因と現象を組で考えることが前提になっていて、4つのラウンド全体は後半の表にまとめました。
図1の例文を見ると、行動目標がほぼ自動で出てくるのが分かります。「両手で抱えている」が原因なら「荷は2回に分けて片手を空ける」、雨の日は階段がぬれたままなので、「ぬれた階段」には「荷は揚重で別に下ろし、人は手すりを持って1段ずつ降りる」のように、雨でもできる動作で答えます。危険要因が具体的なほど、対策の候補が増えます。
「注意」「不安定」「〜していないので」を具体的な動作に変える
危険のポイントと行動目標から、抽象語・否定形・推量・結果の4種類の言葉と、「注意」「確認」のような何もしていない言葉を抜くと、文はほぼ具体的になります。協議会のKY教育でも「ムリな姿勢なので」「不安定なので」はNGで、「中腰で持っているので」「つま先で立っているので」と書くように話しました。「安全帯をしていないので」のような否定形もNGで、「身を乗り出しているので」のように、その場で見える動作に言い換えます。
否定形がダメな理由は、「していないこと」は目に見えないからです。読み合わせで現場を思い浮かべるとき、浮かぶのは「身を乗り出している人」であって、「安全帯をしていない人」ではありません。足りない対策のほうは、行動目標の側に「フックを掛けてから〜する」と順番で書きます。よく使ってしまう言葉を、判定表にまとめました。
| NGワード | なぜダメか | こう言い換える |
|---|---|---|
| 注意して/気をつけて | 何をするかが書かれていない | 手すりを持つ、合図してから入る、など動作で書く |
| 周囲を確認する/足元を確認する | 何を見て、どうなら止めるかがない | 「旋回範囲に人がいないのを見てから旋回の合図を出す」 |
| 不安定な/ムリな姿勢 | 姿勢が人によって違って浮かぶ | 中腰で、つま先立ちで、体をひねって |
| 〜していないので | していないことは目に見えない | 身を乗り出しているので、片手に工具を持ったまま |
| かもしれない/恐れがある | 起きる前提で話し合えない | 「〜して落ちる」と言い切る |
| ケガをする/骨折する | 結果を書くと対策の話から離れる | 事故の型(落ちる・挟まれる・当たる)で止める |
| 十分に/確実に/徹底する | どこまでやればよいか決まらない | 回数・場所・順番で書く(2回に分けて運ぶ、など) |
同じ判定を、下の欄で試せるようにしました。危険要因と事故の型を入れると1文に組み立て、表のNGワードが入っていれば理由を出します。判定するのは言葉だけなので、「ロープで固定する」のような当たり前の対策になっていないかは自分で見てください。入力した内容はどこにも送信・保存されません。
危険のポイント組み立て&NGワード判定
「なぜ」を2回聞くと危険要因が具体的になる
危険要因がぼんやりするときは、事故の型から逆に「なぜ」を聞いていくと具体的になります。協議会のKY教育では、「踏み外して落ちる」に「なぜ?」を重ねて、「両手で荷を抱えていて足元が見えないので、踏み外して落ちる」まで掘り下げる例を習いました。ここでは別の作業、天井ボード張りの脚立作業で同じことをやってみます。
1回目の「なぜ」で出る「身を乗り出している」は、まだ対策が「身を乗り出さない」という否定形になりがちです。2回目で「脚立を動かさずに遠くを留めようとしている」まで降りると、「脚立をこまめに動かす」という肯定形の動作が出てきます。協議会でも、行動目標は「脚立をこまめに動かして作業する」のように具体的な肯定形で書くよう話しました。
止めどころは、「行動目標に書ける動作が出てきたところ」です。それ以上掘ると「工程がきつい」のような話になり、朝のKYの1行では扱えなくなります。
KYシートの記入例|悪い例→直した例5つ
1日分のKYシートは、作業ごとに「危険のポイント」と「行動目標」が1組ずつ埋まった形になります。下は天井ボード張りの日を想定した一例で、項目名や並びは現場の様式ごとに違います。

| 欄 | 記入例(一例) |
|---|---|
| 作業内容 | 2階 天井ボード張り(脚立・可搬式作業台使用) |
| 作業場所 | 2階 東側の部屋と、そこへ上がる仮設階段 |
| 人数 | 職長さん+職人さん3名 |
| 危険のポイント① | 脚立を動かさずに遠くのビスを留めようと身を乗り出していて、脚立ごと倒れて落ちる |
| 行動目標① | 脚立は手の届く位置まで動かしてから留める |
| 危険のポイント② | ボードを両手で抱えて仮設階段を上っていて、段を踏み外して落ちる |
| 行動目標② | ボードは荷上げで別に上げ、人は片手で手すりを持って上る |
| 指差し呼称 | 「脚立の位置、よし!」「手すり、よし!」 |
| 確認欄 | 職長さんのサイン、元請の確認者のサイン(様式による) |
悪い例の共通点は、危険のポイントが事故の型だけで、行動目標が「注意」「確認」で終わっていることです。下の表は、協議会で話した直し方を、僕の言葉で例文にしたものです。「どこが変わったか」の列を見ると、直し方の型が同じだと分かります。
| 悪い例(危険のポイント/行動目標) | 直した例(危険のポイント/行動目標) | どこが変わったか |
|---|---|---|
| 足場から墜落する/足元を確認する | 資材を抱えて足場の階段を急いで降りていて、段を踏み外して落ちる/階段は片手で手すりを持ち、荷は分けて運ぶ | 行動(抱えて急いで降りる)を足し、対策を見える動作に |
| バックホウに接触する/注意して作業する | 旋回範囲に入って片付けをしていて、旋回したバケットに当たる/旋回範囲をコーンとバーで囲い、立入禁止にする | 「どこにいたから当たるか」を書き、注意を設備に置き換え |
| はしごがぐらつく/ロープで縛って固定する | 一人ではしごの上部をラックに結んでいて、はしごがずれて落ちる/結び終わるまで、もう一人が下ではしごを押さえる | 当たり前の固定ではなく、固定作業そのものの危険を書く |
| 不安定な姿勢で転落する恐れがある/無理な姿勢をしない | つま先立ちでボードを天井に押し当てていて、脚立から落ちる/天板には乗らず、かかとをつけたまま届く高さの脚立か可搬式作業台に替えてから押さえる | 抽象語→姿勢、推量→言い切り、否定形→肯定形(高い所に乗る方向ではなく、道具を替える) |
| 安全帯をしていないので落ちてケガをする/安全帯を使用する | 開口部の手すりを外したまま身を乗り出して荷を受け取っていて、開口部から落ちる/手すりを外す前にフックを親綱に掛け、荷を受け取ったらすぐ手すりを戻す | 否定形→していること、ケガの結果を消す、戻すまでを順番で書く |
3行目のはしごの例は、協議会で、常識になった対策や「注意して」「周囲を確認」のようなありふれた対策の例として挙がっていたものです。「ロープで固定」は誰でも知っているので、むしろ「固定する作業のときに何が起きるか」を書くほうが、その日のKYとして意味があります。
表の行動目標は例文で、設備を外してよいか、脚立のどの段まで使ってよいか、何人で作業するかは現場の決まりで変わります。
手すり・幅木などの足場の設備を外す作業、脚立の使ってよい段や作業台への切り替え、立入禁止範囲の決め方は、会社の安全担当と作業主任者に確認してから行動目標にしてください。KYシートに書いたことが、現場のルールより優先されるわけではありません。
行動目標は「肯定形・具体的・その場で確かめられる」で書く
行動目標は、終礼で「できたか」を見て確かめられる動作を、肯定形で書きます。「注意して作業する」は終わったあとに「注意したか」を誰も確かめられませんが、「脚立は手の届く位置まで動かしてから留める」なら、見ていれば分かります。否定形の「〜しない」も、代わりに何をするかが書かれていないので、肯定形に直します。

数値で書ける行動目標は、数値で書くのがいちばん具体的です。協議会のKY演習の回答例でも、作業床の端の手すりの高さや幅木の高さが行動目標になっていました。その数値を、法令で確かめると次のとおりです。
| 行動目標に入れる設備 | 法令の値 | 根拠(労働安全衛生規則) |
|---|---|---|
| 手すり等 | 高さ85cm以上 | 552条1項4号イ(定義)、563条1項3号ロ(わく組足場以外の足場) |
| 中桟等 | 高さ35cm以上50cm以下 | 552条1項4号ロ(定義)、563条1項3号ロ |
| 物の落下を防ぐ幅木等(幅木・メッシュシート・防網など) | 幅木なら高さ10cm以上 | 563条1項6号 |
| わく組足場で交さ筋かいと組み合わせる幅木 | 高さ15cm以上 | 563条1項3号イ(1) |
労働安全衛生規則では、手すり等を「高さ八十五センチメートル以上の手すり又はこれと同等以上の機能を有する設備」と定めています。わく組足場では交さ筋かいと桟や幅木の組み合わせ、または手すりわくを設ける決まりで、足場の種類によって必要な設備が変わります。
手すり・中桟・幅木は、足場を組む側が決めて点検する設備です。数値を行動目標に入れるときは、その足場がわく組足場かどうか、現場で法令より高い値を決めていないかを、会社の安全担当か足場の組立て等作業主任者に確認してから書いてください。
行動目標を決めたら、指差し呼称で締めます。職場のあんぜんサイトによると、1994年の鉄道総合技術研究所の実験で、操作ボタンの押し間違いは、指差しも呼称もしない場合が2.38%、両方した場合が0.38%で、約6分の1でした。「手すり、高さよし!」のように、行動目標の言葉をそのまま呼称にすると、朝のKYと現場の確認が1本の線でつながります。
KYTの4ラウンド法とKYシートの関係
KYシートの「危険のポイント」と「行動目標」は、KYT(危険予知訓練)の4ラウンド法の2ラウンドと4ラウンドの答えにあたります。厚労省の職場のあんぜんサイトでは、KYTは住友金属工業で開発され、中央労働災害防止協会が問題解決4ラウンド法と結びつけ、旧国鉄の指差し呼称を組み合わせたものと説明されています。
| ラウンド | やること(職場のあんぜんサイトの説明を要約) | KYシートでは |
|---|---|---|
| 1R どんな危険がひそんでいるか | 危険要因と、それが引き起こす現象を出し合う | 頭の中で候補を出す段階 |
| 2R これが危険のポイントだ | 重要な危険を合意で絞り込み、「危険のポイント」として指差し唱和 | 「危険のポイント」欄 |
| 3R あなたならどうする | 危険のポイントを解決する具体的な対策案を出し合う | 対策の候補を出す段階 |
| 4R 私達はこうする | 対策を絞って重点実施項目にし、「チーム行動目標」を決めて指差し唱和 | 「行動目標」欄 |
職場のあんぜんサイトの説明は、イラストシートを使い、チームで出し合って絞り込む「訓練」の手順です。一方、朝礼後のTBM・現地KYとして短い時間で行うと、シートに残るのは2Rと4Rにあたる答えだけになりがちです。1Rと3Rは紙に残らない分、書く人の頭の中で済ませる必要があり、そこを飛ばすと「足場から落ちる/注意する」という省略形になって、毎日同じ文が並ぶのだと僕は考えています。
だからこそ、シートの1文に1Rの中身(危険要因)を書き込み、行動目標に3Rで出た具体策を書くのが大事です。月間計画表の「予測される災害」と「その対策」が工種単位の予想なのに対して、KYシートは「今日のこの場所」の予想だと思うと、書く粒度を決めやすくなります。
明日の朝のKYシートは、次の3つの順で書いてみてください。①その日の作業を1つ選び、「〜していて、〜して落ちる」の1文で危険のポイントを書く。②記事内の判定欄に入れて、NGワードを消す。③読み合わせのとき、職長さんが場所と動作を言えるかを聞いてみる。
よくある質問
危険のポイントの語尾は「〜する」と「〜になる」のどちらですか?
事故の型で言い切れれば、どちらでもかまいません。大事なのは「落ちる」「挟まれる」など現象で止めることで、「〜する恐れがある」や「骨折する」のような推量・結果を付けないことです。
危険のポイントはいくつ書けばいいですか?
KYTの説明では、出した危険の中から重要なものを話し合いで絞り込んで「危険のポイント」にします。欄の数は現場の様式によるので、様式に合わせて、その日いちばん起きそうなものから書いてください。
KYシートのテンプレートやエクセルの様式はどれを使えばいいですか?
まず会社の安全担当か所長に、その現場の様式を確認してください。様式が違っても、「危険要因+事故の型」と「肯定形の行動目標」という2欄の書き方は同じです。
KYシートの保管期間は決まっていますか?
この記事では、保管期間を定めた法令の条文を一次資料で確かめられなかったため、年数は書いていません。会社の安全書類の保管ルールに従ってください。
電気工事のKYシートはどう書けばいいですか?
型は同じで、事故の型を「感電する」で言い切ります。たとえば「通電中の盤のそばで既設の配線を外していて、充電部に触れて感電する」なら、行動目標は「外す前に、決められた手順で電気が来ていないことを確かめてから外す」のように順番で書きます。停電させるか、どの器具で確かめるかは作業の内容で変わるので、自分で決めずに確認先に聞いてください。
停電・検電の手順や、通電中に作業してよいかの判断は、会社の安全担当、作業の責任者、電気の主任技術者に確認してください。
熱中症のKYシートはどう書けばいいですか?
熱中症も、「日陰のない屋上で休まずに作業を続けていて、熱中症で倒れる」のように、危険要因と現象の1文で書けます。行動目標は「決めた休憩時刻に日陰で休み、水分と塩分をとる」のように、時刻や場所で確かめられる動作にします。休憩の間隔や作業を止める目安の数値は、この記事では一次資料で確かめていないので書きません。現場の熱中症対策の決まりを会社の安全担当や所長に確認して、その値を行動目標に入れてください。
「周囲を確認する」は行動目標として使えませんか?
そのままだと、何を見て、どうなっていたら止めるのかが分かりません。「旋回範囲に人がいないのを見てから合図を出す」のように、見る場所と、そのあとの動作まで書くと使えます。
参考にした基準・資料
- 厚生労働省「職場のあんぜんサイト:危険予知訓練(KYT)[安全衛生キーワード]」https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo40_1.html(閲覧日 2026-10-27)
- 厚生労働省「職場のあんぜんサイト:指差呼称[安全衛生キーワード]」https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo72_1.html(閲覧日 2026-10-27)
- 労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第552条第1項第4号、第563条第1項第3号・第6号(e-Gov法令検索、2026-10-27時点の現行条文)https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032(閲覧日 2026-10-27)
この記事の確認日:2026-10-27


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